【レビュー】Random Access Memories / Daft Punk(2013)

Daft Punk
Random Access Memories

〜某レコード店冊子に寄稿したものをいろいろイジりつつ、追記〜

 世界中で売れに売れまくり、20カ国以上のチャートで第1位を獲得したこの作品。Human After All以来8年ぶりとなるDaft Punkの新作は、これまでのデジタル的なアプローチと違い、驚くほどにアナログなものとなっている。
 自身の作品により00年代の音を否が応にも決定付けてしまった彼ら。今欧米を中心に世界中で流行りに流行っているEDM(Electronic Dance Music)の分野に多大なる影響を与え、その地位は表立ってはいないものの、確たるものとなっている。たしかにDaft PunkはEDMの系譜を語る上で外せない存在だとは思うが、その一方、そこまで神聖視されるほどのものでもないとも思う。彼らはインタビューで「今のEDMの悪しき流れを作ってしまった責任を感じないでもない。だからそれを壊してくれる存在を待っている」とコメントしている。(同時にSkrillexを褒めてもいる)他にも様々なところで発言が取り上げられているが、彼らはDavid GuettaやDeadmau5など、現EDMジャンルを代表するアーティストに対して批判的というよりは、そのフォロワーやDIY精神を悪用するチープなDJもどきに対して批判的であるようだ。

 さて肝心の作品についてだが、まず特徴的なのが音質の良さ。16年も前の作品なので当然といえば当然だが、『Homework』の時とは次元が違う。偏執的なまでに生音に拘り、全編(ほぼ)生演奏でありながらミキシングもアナログなアプローチをとっていることもあって、結果としてそれが音質の良さをさらに際立だせている。
一聴するだけですぐに感じられる、えも言われぬレトロ感、ノスタルジー、そして暖かさ。僕が後追いでしか触れることのできなかった70年代や80年代のグッドミュージックを、いまこの時代に、生で体験できることはこの上ない幸せである。
また、その世代ではない彼らのフェイバリット・アーティストであるThe StrokesやPanda Bearなどを招き、Nile Rodgers(御歳60!!)らと同じ1枚のアルバムに押し込めてしまいながら、アルバムとしての流れや一貫性が損なわれていないところは極めて秀逸。
全編を通し、ジャンルを代表するアーティスト達をフィーチャリングし、リスペクトし、且つDaft Punk自身のテイストも上手い具合に添えられている。このあたりの絶妙なバランス感覚とセンスはさすがの一言だろう。

 彼らは今の時流に乗って『Discovery』や『Human After All』のようなエレクトロ路線の作品を作ることもできたに違いない。その方面で押してもセールス的に一定の成功を収めていたはずだ。しかしそれはもうこれまでに十分にやりきっており、その分野において彼らは自身の役目を終えていると考えたのだろう。作品間隔が前作から8年も空いてしまった要因もここにあるのかもしれない。そして今度は彼らがその分野に対するカウンターとして、この作品を世に送り出した。これほどカッコいいことはない。

 『Random Access Memories』には、「One More Time」も「Technologic」もない。「Harder,Better〜」もない。今のクラブシーンでDJにノッてバキバキに踊る為に作られた作品ではない。そこを10年前に通ってきた大人達が、好きな飲み物を片手に、椅子に腰掛けながらゆったりと聴くためのミュージック。
 Daft Punkが青春を過ごした70〜80年代の音楽やシーンに対するリスペクトと愛がこれでもかと詰め込まれた、レトロだが新しい作品で構成された、まさに最高傑作。ここまでやり切ってしまった彼らは、次はいったいどこへ向かうのだろうか。

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