2007年1月、スティーブ・ジョブズは「電話を再発明する」と語り、同年6月にiPhoneが世に送り出された。そこから十余年を経て、此度Appleは「ヘッドホンを再発明」した。
2014年にAppleがBeatsを買収したことで「Appleオリジナルのヘッドホン」発表への機運が高まっていたが、その後もいくつかのイヤホンが発売されるのみで、ヘッドホン自体はBeats by Dr. Dre製品のマイナーアップデートに終止していた。今やAirPodsは世界で最も売れた(売れている)イヤホンとなり、ノイズキャンセリングを搭載したAirPods Proも大ヒットを記録。当然ながらヘッドホンへの期待も高まるばかりであった。
そして2020年12月18日、満を辞してAirPods Maxが登場する。それはついに世に出る初のApple純正ヘッドホン。「約7万円」という値段ばかりが先行しがちな同製品。半月ほど使ってみてのレビューをお届けする。
デザイン:高級感溢れるデザイン
イヤーカップはMacBookシリーズ同様のアルミニウム製で、バンド部分に使われているのはApple WatchやiPhone12 Proシリーズの側面などと同様のステンレススチール製。使われている素材も相俟って値段なりの高級感溢れるデザインになっていると言えよう。
ヘッドバンド部分はとても珍しい形状となっており、素材も低反発の特殊メッシュが使われている。またイヤーパッドも同じく特別なメッシュ製で、共に着け心地は抜群に良い。384gという極めて重いAirPods Maxを「快適」と思わせる工夫はここにある。
側圧についても程よい締め付けで、僕が持っている他の200g前後のヘッドホンと比較してもだいぶ具合が良いと感じた。何より自宅では常にメガネおじさんの僕にとって、メガネを着用したままでも全く耳や頭が痛くならないヘッドホンは始めてだったので、これはとてもありがたい。
デザインといえばもう一点の細かいこだわりが、マグネットにより着脱可能なイヤーパッド。それぞれにLRの文字が編み込まれており、左右が一目でわかる仕様となっている。”こだわり”でいえばApple製品では珍しくのロゴが使われていないところもある意味”新しい”と言えるだろう。
ちなみに5色の中から僕が選んだ色はスペースグレイ。下の画像の通り、今回のスペースグレイはこれまでの黒系の中でも「深い黒」に見える。ちなみにiPhone12 Pro Max、M1 MacBook Pro、iPad Pro、そしてAirPods Max、すべて黒系で統一している。
操作性:Appleならではの仕組みを搭載
ここにも他のヘッドホンにはないAppleならではの特徴があり、その最たるものが「デジタルクラウン」であろう。これはApple Watchのサイド部分に使われているのと同じもので、再生&停止、曲送りや曲戻しに加え音量調節など、さまざまな操作をこれ一つで行える。ただのボタンやタッチ式の操作などにせず、デジタルクラウンを使う(使える)のもAppleならではだ。
ちなみにイヤーカップにはもう1つボタンが搭載されており、これはノイズコントロールのON/OFFのみに使用される。僕が持っているイヤホンやヘッドホンは、ノイズキャンセリングおよび外音取り込みの切り替えにはボタンの長押しが必要だったり、それぞれ左右どちらかでしかできなかったりするものがほとんどである。その点Maxはここもわかりやすく、シンプルでいいなと感じている。
ノイズコントロール:極めて優秀で最高クラス
僕は15年以上前からカナル型のイヤホンを使っており、遮音性の高さもあってノイズキャンセリングなど別に必要ないと思っていた1人である。しかしBeatsのStudio WirelessやSONYのWF-1000xm3、そしてAirPods Proでノイズキャンセリングの素晴らしさを知ってしまって以来、ノイズキャンセリングが自分の中でむしろ必須になってしまった。今も毎日電車通勤をするため、ノイズキャンセリングの恩恵に預かる場面は思いのほか多い。
話が逸れたが、このAirPods Maxのノイズキャンセリングは素晴らしい。今、電車はコロナ禍ということもあって基本的には窓が開いているため、騒音がかなり大きくなっている。それらの風の音、電車のアナウンスなどのノイズも十分に軽減される。
また、アクティブノイズキャンセリングは環境によって最適なNCになるように調整されるため、例えば家で使う際にはエアコンの音、外の環境音、空気清浄機の音などが綺麗に消える。
そんなこともありAirPods Maxを着けたまま外に出ると車に気が付かないことがある。非常に危険なので取扱い注意だ。
(僕も1度車にぶつかりかけたことがあり、以来散歩中のノイキャンは常にOFFにしている)
ノイズコントロール機能の2つ目、「外音取り込み機能」についてだが、これも極めて優秀であり、数ある製品群の中でも最高クラスであると断言できる。AirPods Proもここの部分は出色の出来であったが、Maxもほぼ同等かそれ以上のレベルにある。一瞬ヘッドホンを着けていることを忘れるくらいの素晴らしさ。「耳の拡張デバイス」といった表現のされ方も納得である。
音質:クリアな中高音と高精細な低音
音質については”素晴らしい”の一言。
まず全体的に解像度が高く、安価なイヤホンや良質ではない音楽再生環境では決して聴こえない音が耳に流れ込んでくる。その意味ではアーティストが意図する原音に最も近いものを味わうことができるだろう。
音域別にみると、この製品が最も強みを発揮するのが中高音だ。中高音が非常にクリアなため、キラキラした音の粒が降り注いでくるような感覚を体験できる。J-Popやアニソン、EDMやカントリー系の楽曲からクラシックまで、さまざなジャンルにおいて高い満足度を得られるだろう。
中高音が強い、と書いてはいるが、低音も引っ込んでいるわけではなく、必要十分に鳴っている。ボリューム自体が多いわけではないため、日本人の大好きな所謂”ドンシャリ”とは少々味付けの方向が異なっている。同じApple製品群の中では傘下におさめた昔のBeats製品のような迫力ある低音と違い、どちらかといえばAirPodsのようなフラットな感じに近い。
やや控えめではあるが、低音は上品且つ高精細なので、ドラムやベース、コントラバスなどが繊細に聴こえてくる。その意味でロックではドラムのハイハットやタムの”叩き方”を、ベースではスラップ弾きやピック弾きの差異などを楽しめる。また、音場も広いのでHip-Hopもボーカルとバックミュージックの分離感を楽しめる。
個人的にはこのバランスは非常に好みである。
良い点と悪い点
Good!!な5つのところ
- 空間オーディオがすごすぎる
- 高性能なマイク
- 外音取り込み機能
- Apple製品との親和性
- 音質
【1】空間オーディオがすごすぎる
AirPods Maxの最もすごいところは誰が何と言おうと「空間オーディオ」である。対応コンテンツこそまだ少ないが、Apple TV+のDolby Atmos対応作品を見た時の感動は凄まじいものがある。この7.1chのホームシアターのようなサラウンドサウンドは、まるでその場所を一瞬で映画館に変えてしまうかのようだ。
また、Apple TV+を見ていると”音漏れしているのではないかと勘違いさせられる”ので注意が必要だ(?)。何を言っているのかわからないかもしれないが、大袈裟でなく、あまりにも空間オーディオがスゴすぎてヘッドホンとデバイスの接続が切れているのではないかと錯覚させられてしまうのだ。
【2】高性能なマイク
そもそも合計9つもマイクがついているところに驚きだが、そのうち3つが音声を拾うマイクに充てられている。Zoomでの通話時、動画の録音時等々、自分の声のあまりのクリアさ加減に驚かされた。
【3】外音取り込み機能
先にも述べた通り外音取り込み機能は他の追随を許さないほど高性能である。
【4】Apple製品との親和性
これまでのAirPodsと同様にAppleのデバイス間でのシームレスな切り替えが可能となっており、MacやiPad、iPhoneなど複数のApple製品を利用するユーザーにとっては唯一無二の利便性を発揮する。
【5】音質
音質については好みの問題もあるが、個人的にはこの絶妙な中高音と低音のバランス、解像度の高さは非常に好みである。同じワイヤレスヘッドホンで比較対象とするならば(値段は多少違えど)SONYのWH1000xm4、ゼンハイザーのMomentum Wireless3、BeatsのSTUDIO3 Wireless、BOSEのH700などになるかと思うが、それらのどれと比較してもAirPods Maxの方が”総合的に優れて”いる。
音のバランスやボリュームではなく、特に差を感じるのが全体的な解像度の高さと中高音の質。この部分で圧倒的なため、総合的な評価では勝ると思っている。
Bad…な2つのところ
- 重い(384g)
- 高い(約7万円)
【1】重い
先述の通り、AirPods Maxはイヤーパッドとヘッドバンドが特殊なメッシュでつくられており、着け心地が非常に良く快適である。…が、さすがに384gはあまりにも重すぎる。長時間着けていると首や肩が凝ってしまう。
【2】高い
7万円のヘッドホンが”安い”と感じる方はかなりのマイノリティであろう。僕も以前から”出たら即買う!”と決めていた製品ではあったが、値段を聞いてさすがにドン引きした。実際に使ってみて損をしたとは全く思っていないが、やはり気軽に人に勧めるには至らない。
まとめ
2020年もApple製品を買いまくった1年であった。
- MacBook Air 2020
- iPhone 12 Pro
- iPhone 12 Pro Max
- MacBook Pro M1
- AirPods Max
上記だけで約80万円…相変わらずのApple信者っぷりに呆れてしまう。それはさておきこの中でベストバイに選ぶなら…M1のMBPかAirPods Maxになると思う。実際ここでレビューを書くのも久々なのだが、これほど尖っていてレビューしがいのある製品もなかなかない。それほど個人的にはものすごく気に入っている。
また、よく議論の的になっている「7万円の価値があるのか?」という問いに対してはやはりNoの声の方が大きいのだろう。僕も”どちらかといえばNo”だと思っている。
「AirPods Maxをオススメできますか?」
そう聞かれたとして、どうしても「オススメします!」とは答えられない。その理由はなんといってもこの”高すぎる値段”に尽きる。あと数万円足せばMacBookが買える。iPad Proも買える。なんならPS5を買ってもお釣りが来る金額なのだ。こう書くとやはりかなりのインパクトがある。仮に3万円くらいだったら会う人会う人に勧めまくっていただろう。
今は7万円という驚くような値段設定になっているが、第2,第3世代と続くうちにいずれもっと誰もが手にしやすくなったり、軽くなったり、さらに音質が良くなったりと進化をしていくのだろう。Apple WatchもiPadもかつてはそうだった。あくまで今はその第一歩なのだろうと思う。
ただ、とにかく僕自身はこのAirPods Maxが大好きで、いろんな人にこのノイキャンを、空間オーディオを、そして素晴らしい音楽体験を味わってほしいと思っている。
「iPhone12、M1 MacBook、iPad、AirPods Max、どれか1つだけしか買えないならどれを買いますか?」
いま、もしそう聞かれたならば、僕はAirPods Maxと答えるだろう。
それくらい自分にとっては特別で、プレミアムな逸品である。
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